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水彩ブラシ7

 誰より優しかったあなた:“彼女”の怒り

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さて、次は……“彼女”(アフティ)の話をしましょうか。

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その人はなんて名前なの?

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私たちマギサは、その人をただ“彼女”と読んでいるの。何故なら、本当の名前は永遠に失われてしまったから。

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悲しみから愛情が生まれ、感謝と共に語り継がれているのが、ユフィラの物語なら……優しさから憎しみが生まれ、悲しみと共に忘れ去られていったのが“彼女”の物語ね。

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さっきとは違って、暗くて、やるせないお話になるわ。でも、ちゃんと聞いてほしいの。

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うん。私、しっかり聞いて、覚えておくよ

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ありがとう、テトさん

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……“彼女”が生まれたのは、ユフィラよりもっと後、エルゴの脅威が世界を脅かし始めた頃。けれど、まだイリスとマギサが手を取り合って、共に生きていた時代よ。

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彼女”は誰よりも生意気で、自信に溢れ、負けず嫌いで……けれど気高くて、優しい魔女だった。

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最初のエルゴが異端審問官によって討伐されたときも、傍らで魔法を使い戦ったと言われているわ。

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エルゴと戦ったの!? その人、ものすごく強かったんだね……!

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彼女が歴代で最強の魔女だったと言うマギサも多いわ。今となっては、真相を確かめようもないけれど……でも、彼女が最期の魔法に至った、唯一の赤の魔女だったのは事実ね。

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最期の魔法……それは、いつ使ったの? エルゴを倒すとき?

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いいえ…………“彼女”の無二の親友『微笑みの魔女』エイミアが殺されたときよ。

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え……?

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最初のエルゴが討伐されて以来、アストライアは少しずつ、けれど確実に、エルゴによる災いで蝕まれていった。

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当時はまだ、マギサとエルゴの区別がはっきりしていたけれど、人々は徐々に疑心暗鬼に陥って……自分の周囲にエルゴが潜んでいるのではないかと疑うようになったの。

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怒りっぽくて言葉足らずで誤解されてばかりの“彼女”と、どんなときも微笑みを浮かべて空気を和やかにするエイミア。

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二人は、本当に良い友人同士だった。意地っ張りの“彼女”も、エイミアの前では素直に笑えたみたい。

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なら、エイミアさんはどうして……。

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眷属の被害で、二人が住む街の泉や畑が汚染されて、犯人のエルゴを探す中で少しずつ、街に狂気が満ちていって……ついに死者が出た。

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ちょうど、眷属を倒すために“彼女”が街を離れていた日のことよ。

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亡骸を前にして、エイミアだけが涙を流さなかった。彼女は黄の魔女だったから、どうやって悲しみを表に出していいのかわからなかったのでしょうね……。

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街の人々も、本当はちゃんとエイミアのことを知っていた。けれど、エルゴに怯えるあまり、彼らは『人の死を悼まないエイミアこそが邪悪なエルゴだ』と思ってしまったの。

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街の人たちは……。

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エイミアを、石打ちにして……殺してしまった。“彼女”が眷属を倒して街に戻ったときには、魔法で反撃もせず、ただ無実を訴え続けた親友が、無残な姿で晒されていた。

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そんな……ひどいよ……そんなことって……。

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“彼女”は誰より気高くて優しかった。大好きなエイミアと、街の平穏を守るため、危険を恐れず勇敢に戦っていた……。

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親友を殺され、街の人々に裏切られた瞬間、“彼女”は憎悪に飲まれて、叫び声と共に赤のアステールに姿を変えたの。

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“彼女”の最期の魔法は、憎しみの炎。彼女自身と、親友の亡骸と、街の全てを焼き尽くして、炎は三日三晩燃え続けた。

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焼け跡には、黒く焦げたカンテラの残骸だけが残っていたと伝えられているわ。

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…………。

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テトさん……。

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悲しくて、辛いけど……でも、二人のこと全部忘れちゃう方が、悲しいから……。

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ええ……そうね。イリスを呪いながら亡くなった“彼女”の最期を嘆き悲しむあまり、マギサたちは“彼女”の名前を呼ばなくなった。

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そうして名前が忘れ去られてもなお、“彼女”の物語は癒えない傷となって、私たちの胸に残っているの。

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私、忘れないよ。ちゃんと、大人になってからも、このお話を伝える……。

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最後まで聞いてくれてありがとう、テトさん。私も、あなたにこの話を伝えられて、本当によかったと思うの

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青の聖女:

  ユフィラの悲しみ 

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 弱虫な神童:

    ラドミヤの驚き

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